2020/02/14

トッド・フィリップス監督「ジョーカー」

バットマンシリーズは子供のころ金曜ロードショーで放送していたら見る程度で、
バットマンやロビンやキャットウーマンの活躍は覚えているもののジョーカーやペンギンはうろ覚え…
その程度の知識で「ジョーカー」の前知識もなく観てみた感想です。

 映像の美しさ、アーサーの生きる苦悩や哀しみ…、
ゴッサムシティという世界観(S・キングの架空の町デリーのようにとてもリアルでした)
音楽はよかったけれど囁くようなセリフが多いのに(その分アーサーの笑い声が際立って印象的)
シーンによって爆音だったので子供を寝かした後のリビングで見るにはリモコン片手に一苦労…。
字幕で見るべきだった~。(映画館で観ていたら一層浸れたと思います!)
アーサー役のホアキン・フェニックスの名演もちゃんと生の声で見たかったと後で後悔…。 

物語の中盤でどこからどこまでがアーサーの世界(妄想)だったかわからなくなりましたが、
希望的なシーンなほぼ絶望した人がすがり夢想する世界だったのかもしれません。
そう思って迎えたラストシーン。
もはや復讐に燃えるブルース・ウェイン少年のシーンがあまりに物語めいていて、
そう思うと最後の笑いでアーサーの存在そのものがジョーカーの作ったお話だったのか…。
アーサーは映画通りの背景ありきのジョーカーだったのか、
それともジョーカーはジョーカーでしかないのか。

いずれにしてもアーサーの世界はとても哀しかった。
有名な階段のシーンは美しかったです。
映画の断片で踊るアーサーの仕草はどれも美しかったです。
ホアキン・フェニックス、すごい俳優ですね。
映画としてとても素晴らしい作品だったと思います。

ただこのところお疲れモードだった私は鑑賞後完全に映画に引きずられてとても沈んだ気持ちになってしまいました。
しばらくは殺人や暴力のない映画を見よう…。

ジョン・カーニー監督「シング・ストリート 未来へのうた」

アイルランドで家庭の都合でどん底の青春時代を余儀なくされた主人公コナーがバンドを組む話。
この映画についてざっくり言うとそれがすべてですが、
そこに散りばめられた青春や音楽がとてもキラキラした映画でした
多摩地域でステレオタイプの外国の世界に憧れて子供時代を過ごしたわたしからしたら
恥ずかしながらヨーロッパってだけでおしゃれで憧れの対象に感じるのですが、
この映画の主人公の絶妙なダサさや海の向こうのイギリスへの憧れ、
「ここから出たい」と願う気持ちがとてもリアル。

主人公は「BACK TO THE FUTURE」のダンスパーティーシーンに憧れをもっていて、
そのイメージでバンドのPVを撮ろうとする姿とか愛おしさすらあった!
(しかもどうにも冴えない現実のPV撮影中に主人公の頭の中で完璧に再現されたダンスパーティーシーンがまたよかった)

主人公&バンド仲間はダサいけど、必死にもがいているうちに魅力やかっこよさがきらきらしてくる。
それが才能なのか青春のなせるわざなのか…
憧れに対して臆面せず手を伸ばす主人公の姿は応援したくなります
わたしの10代にこんな行動力はなかった…。才能も。

最後のシーンは本当に意外で、突然終わらせた感がすごい。
でも後味はまったく悪くなくて、その先は希望なのか絶望なのかわからないけれどわくわくした。
単なるボーイミーツガールものとは少し違って、憧れの彼女の存在が憧れの対象から外れても続く。
ミステリアスではなくなった彼女の姿は主人公と同じで、
だからこそふたりの門出に「がんばれ!未来は明るい!」と応援したくなる。

個人的には音楽何でもござれのバンド仲間のエイモンと、主人公のお兄さんがいい味だしてた。

劇中歌はどれもよかったけど、中でもUPがとてもよかった。
憧れの彼女への高揚した気持ちとバンドの楽しさがあふれたナンバー。
こんなカセットテープももらったらときめく。

ミヒャエル・エンデ「モモ」

子供のころに読んで“時間どろぼう灰色の男たちのインパクトが強烈だった児童書「モモ」。
んじんのあらすじがうろ覚えだったのでこの機に読み直してみました
「ミヒャエルエンデ モモ」の画像検索結果
ストーリーが本当におもしろくて最初から最後まで夢中になって読みました。
冒頭の世界観やモモという少女の説明、灰色の男たちの登場にわくわくして読み耽りました。
終盤の灰色の男たちに時間を奪われた世界、ひとりぼっちになってしまったモモのあたりで怖くなって、それこそ一気に読みました。
どのシーンも文章を読んでいると頭の中でありありと情景が浮かぶから不思議です。
モモの悪夢のシーンは特にすごい迫力でした。

時間どろぼう、亀のカシオペアにマイスターホラ、
掃除夫ペッポと語り手ジジ、そしてモモ。
よくここまで魅力的な登場人物と設定を作ったなとびっくりしてしまいます。

物語では灰色の男たちに言いくるめられた人々は人としての尊厳や幸せより、効率的に時間を使うことだけを考えるようになってしまいます。
ジジは「モモと過ごした日々は幸せだったけれど、お金もないボロを着た生活には戻りたくない」と言う。
どうすれば幸せになれるかわかっているのにそれを選択できない(しない)
日々やることに追われ空いた時間を探すのに一苦労しているわたしには身につまされるような話です。
特定の遊びのためだけに作られたおもちゃを受け取らないモモのシーンも印象的でした。

灰色の男たちに支配された世界では、大切なものを知っている気高いペッポも騙され利用されてしまう。
恐ろしい世界です。
モモ以外のすべての人が時間を奪われた世界は児童文学とは思えないほど恐怖を感じました。

物語前半のモモと遊ぶ子供たちの描写、
モモのためだけのお話をしてあげるジジの場面は本当にすてきでした。
この年齢になって改めて読んで、ずっと心の隅に忘れないでいたい大切な物語だと思いました。